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みにくいすいかの子
【10/10】
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冬の間、スイカの子がどんなつらい思いをしたかは、あまりにかわいそうで、とても書くことはできません。
そして、待ちに待った春がやってきました。
雪がとけ、冬の間聞こえなかった小川のせせらぎが聞こえてきました。
川辺には、黄色いフキノトウが咲いています。
つくしんぼも地面から顔をのぞかせています。
そんないなかをあとにして、スイカの子はまた街にやってきました。
スイカの子はだいぶたくましくなりました。
街のあちこちの桜の木が重そうなつぼみを無数にぶらさげています。
スイカの子は、いつかのくだもの屋さんの前にきました。
棚の一番上には数個のメロンが木の箱の中で、いつものようにふんぞり返っています。
「これまでに僕はかぞえられない程つらい思いをしてきた。
一度でいいから、あの棚の一番上で休んでみたい。
あのメロン達に蹴落とされてもいい。」
そう思ったスイカの子は、店に入り、棚を登りはじめました。
一番上まで登りきると、メロン達がこっちに向かってきました。
「さあ、僕を殺してください。
君達のそばで死ねるのなら僕は幸せです。」
かわいそうなスイカの子は、近づいてくるメロン達の前でそう思いながら、恐くて動けなくなってしまいました。
それでも目だけはカッと見開いて、店の外を見ていました。
───その時です。
みにくいスイカの子は、生まれて初めてショーウインドーに映った自分の姿を見たのです。
でもその姿は、小さい頃からバカにされイヤがられてきたみにくいスイカではなく、1個の美しいメロンでした。
ああ、まるで夢のようです。
スイカの子はこれまでの苦しかったことを思いおこし、今の幸せをとてもとても喜びました。
年上のメロン達は、スイカの子の前でおじぎをしたあと、体を拭いてくれました。
スイカの子はなんだか照れてしまいました。
自分がみんなから尊敬されるメロンだということがわかっても、スイカの子は少しもいばったりしませんでした。
スイカの子はどんなにつらい思いをしても、美しい心だけは忘れなかったのです。
店の前に子供達が集ってきました。
子供達は若いメロンを見つけると、
「おかあさん!
新しいメロンがでたよ。」
「あのメロンがいちばん美しくておいしそうだよ!」
と、うれしそうに言いました。
ああ、なんて幸せな春の日でしょう。
それからもみにくいスイカの子、いや美しいメロンは、みんなから愛され幸せにくらしましたとさ。