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みにくいすいかの子
【9/10】
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スイカの子は街へやってきました。
今日はクリスマス・イブ。
キラキラとかがやくクリスマス・ツリー。
あちこちで聞こえてくるクリスマス・ソング。
子供にクリスマス・プレゼントをねだられているおとうさんおかあさん、パーティ帰りの若者達、肩を抱き合って歩く恋人達。
街は幸せそうな人達であふれています。
スイカの子は、ある果物屋の前で立ち止まりました。
ショーウインドーのむこうには、見たこともない外国の果物達がずらりと並んでいます。
ひときわ目をひくのは、棚の一番上に飾られている木の箱に入ったメロンというくだものです。
なんと美しいくだものでしょう。
きれいな緑色をした丸く上品な顔、そしてあの人を酔わせてしまいそうなあみめ模様。
「エヘン!」と、そのメロンは他のくだものたちを見下ろしながら、あたりに甘い香りをまきちらしています。
ミンクのコートを着た高貴な婦人が店の中に入っていきました。
沢山のお金を払って、そのメロンを買っています。
外にはメロンを一目見ようと、大勢の人達が集ってきました。
みんなうらやましそうに見ています。
「ああ、ぼくもあんなきれいなくだものになれたらなァ。」
スイカの子は窓の外からしばらくメロンを見つめていました。
メロンを見ていると、なぜかとても不思議な気持になるのでした。
真っ黒な空から白く冷たいものがひらひらと降ってきました。
雪です。
これから、スイカの子にとって長く厳しい冬のはじまりです。