🎨お守り待受

【1/3】

『もぉ、さいてい! 見てよこれ、サランラップにくるんで"ドーン"よ! センスの欠片も無いわ。』
『何怒ってるのかしら?』
『きつく断り過ぎた自分に腹立ててるんでしょ。』
OL達のヒソヒソ話は当たっていた。
冒頭の第一声の主は津山(つやま 仮名)。 つい1ヶ月程前、ここ日本空輸サービス叶H品事業部調達課に転属になったキャリアウーマンである。 若いながらも頭の回転の良さとバイタリティで、同期一番に主任に昇格したやり手だ。 しかもなかなかの美形と来ている。 なのに最近の津山の毎日は、退屈だった。 天下の日本空輸系列、調達課の主任バイヤー。 聞こえは良いが、要は年間数百社に昇る売り込みの面々を「丁重にお返しする」のが主な仕事だ。 今も一仕事を終え、会議室から帰って来た所だった。 今日一番のお相手の名は「矢部みち子」。 社内で「名物」扱いされているおばさんだ。 地元福井の小さな小料理屋を一人できりもりする肝っ玉母さん。 2年位前から、小料理屋の閉店時間に寝る間も惜しんで新しいお弁当を開発しては、わざわざ東京まで売り込みにやって来るという生活が始まった。 別に道楽でやってるつもりは無かった。 夫が残してくれた店をもっと有名にしたい、という一途な思いからだ。 小料理屋はうまく行っているが決して余裕が有る訳ではない。 福井⇔東京間の交通費も、試作用の材料費も、煮炊きに掛かる光熱費だってかなりの負担だ。 彼女なりに真剣なのだが、出来上がった物はどこかピントがズレていた。 調達課歴代の男性担当者達は皆、格好を付けてきっぱりとは断らない。 可哀相に彼女はそれを見込み有りと勘違いして、また2ヶ月後には東京にやって来てしまう。
◇◇
『私はそんなに甘くないわよ。』
みち子がまるで試金石の様に思えた津山は、持参して来たお弁当をことごとく完膚無き迄に批判していた。 さすがのみち子もこれには落ち込んだ。
『今までお付き合いいただいて、ほんとにありがとね。』
そして、帰り支度をしながら、かばんの中から何かを取り出した。
『コレ…、おみやげ。 福井名物の焼き鯖寿司です。 皆さんで召し上がってください。。。』
気の毒なくらい弱々しい声だった。 自分が悪い事をした訳でもないのに、誰かに責められている様な感じがした津山だった。 机の上に置かれたそれ、無造作にラップに包んであるだけのお土産の中途半端なでっかさが、妙に津山の癪に触った。

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