🎨お守り待受

【2/3】

『三日月くん、お昼まだでしょ? これ食べといて。』
三日月(みかづき 仮名)は、1年前調達課にバイトで入って来た青年である。 この度、津山の着任と同時に正社員になった。 いわゆる今風の若者で、鳥の巣の様な頭と、わざと継ぎはぎがしてあるズボンが、中間管理職のオジサン達の不評を買っている。 仕事の要領は悪いが、恐ろしくお調子者でとにかく明るい。 怒られ上手な所が有って、津山の様なちょっと厳しい女性に可愛がられるのがうまい「お姉さまキラー」である。
『自分、魚ダメなんすよ。。。』
いかにも三日月らしい、場の空気をうまく"かくはん"させる、普通に言えばかき乱すナイスな返答である。 津山も慣れた物で、
『そう、じゃ捨てといて。』
と軽く突き返す。
『自分で捨てればいいのにねー。』
見兼ねた古参OLが声を掛けた。
『あなた、お昼代だってバカにならないでしょ! せっかくだから食べなさい。』
そして、給湯室近くに立っていた若手OLを、良く通る声で呼んだ。
『悦っちゃん、果物ナイフでいいから持ってきてー。』
『ハイ。』
◇◇
自席でメールのチェックをだらだらしている内に、津山のイライラ感もだんだんと薄れてきた。 なのに、調達課の"シマ"の端、津山から一番遠い通路側の小さな共有スペースで、談笑しながら固まっている三日月とOL達が目に入ったもんだから…。 またイライラが込み上げて来た。
仕事とは責任。 やり甲斐の有無は責任の有無。 責任の無い仕事なんて楽しいはずがない。 自分の持論を真っ向から否定されている様で、彼女らにそんなつもりは毛頭無い事は分かっていても、あの人達を見ていると腹が立って来る。
『ちょっと、そこで食べないで! 臭いが拡がるでしょ。』
『いや、コレ、全然臭わないっすよ。』
普段三日月に甘い津山もこれにはカチンと来て、「ズカズカ」という擬音がぴったりの勢いで、彼の元に詰め寄った。
『あなた、魚嫌いなんじゃなかったの?』
『でも、これ、ウマいっすよ。 ・・・結構いけます。』
「相手の真意」とか「自分の立場」とか「発言の影響力」とか、そういう類と全く無縁に、ただおいしい物をおいしいと言いながら目を細めて食べている三日月が、少し羨ましく思えた。
『あなた、食べ過ぎよ!』
津山が寿司の一切れに手を延ばしたのは、そんな偶然の中の、とても自然な流れだった。

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