🎨お守り待受
鯖
【3/3】
その頃みち子は東京タワーに居た。 みち子の東京旅行は、いつもギリギリの予算だった。 だから観光は「成約」までお預けにしていたのだが、もうそんな必要も無い。 飛行機をキャンセルして、この歳では少々しんどい深夜バスに替えた。 浮いたお金で、前から行きたかった東京タワーの有料展望台に昇った。
『これが最後になるのねぇ。。。』
東京の景色を目に焼き付けようとしても、眼下にどこまでも続く一面のビル群は、とてもいっぺんには覚えられそうにない。
『私…、今まで何やってたんだろう?』
気が付くと、もう夕方になっていた。
『いけない。 とっくに飛行機が着いてる時間だわ。』
携帯を持っていない、否、持たなければいけない程忙しくなかったみち子は、公衆電話を捜した。 電話の向こうの声は、心配というより少し苛立ってる様子だった。
『お母さん、今どこに居るの? 日本空輸の津山さんが至急連絡して欲しいって、さっきから何度も電話して来てるよ!』
何が有ったんだろう? まさかあの鯖が悪くなっていたんじゃ…。 みち子は恐る恐る津山に電話を掛けた。
『あ、みち子さん? 津山です。 本日はどうもありがとうございました。』
怒ってる声に聞こえる。
『ハァ…、どうも。』
みち子にはこう答えるのが精一杯だった。
『結論から言います。 先程頂いた鯖寿司の件ですが…、』
ああ、やっぱりそうか。。。 みち子は受話器を置いて逃げ出したい気分になった。
『あれ、採用します。 ぜひ一緒にやりましょう!』
そのあと津山は、1ヶ月後の社内プレゼンの事や、それまでにパッケージをどうにかしてくれとかいう細かな話を機関銃の様にしゃべり続けていたが、みち子の耳には入っていなかった。 オレンジ色に染まった東京の街を、あふれる涙のカーテン越しに見ているのがやっとだった。 空前の大ヒットとなったお弁当「みちこがお届けする若狭の浜焼き鯖寿司」の誕生日は、こうして暮れていったのだった。
※このお話は実話をヒントにした
フィクション
です。
一発逆転❗サバチャンス(小x3)
一発逆転❗サバチャンス(大x1)
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