✏お守りコラム
−第25回−
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さて、このマンドレイク。 おとぎ話の中の想像だと思っている人も多いかもしれませんが、実在する植物です。 地中海沿岸に生育するナス科の多年草。 残念ながら日本では見られません。 気になる根っこは、さすがに目や口は有りませんが、朝鮮人参(高麗人参)の様な形をしています。 ちなみに朝鮮人参(ウコギ科)は、根の形が人の手足に似ているので「人参」となりました。 「参」は当て字で、元はもっと難しい字だったそうです。 奈良時代には既に日本へ渡来していて、江戸時代にいわゆる普通のニンジン(セリ科)が入って来るまでは、人参と言えばこの朝鮮人参を指していました。
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ニンジンも朝鮮人参も、とても滋養の有る食べ物ですが、マンドレイクはどうでしょう? マンドレイクは毒草です。 ナス科は毒草が多い事で知られています。 ナス、トマト、ジャガイモ、唐辛子、ピーマン。 普段私達が食べている野菜にもナス科の物が多く有りますが、ジャガイモの芽やトマトの葉は毒です。 『あなたの健康を害する恐れがあります』と書いてあるタバコもナス科。 日本の山地に自生するハシリドコロという植物。 食べると狂った様に走り回ってコロッと死ぬという意味から付いた名だそうで、キンポウゲ科のトリカブトと並ぶ日本の毒草の横綱です。
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ただし、地球上の毒草のほとんどは、少量用いれば薬になります。 逆に薬草は大量に摂取すれば、ほぼ間違いなく毒になります。 毒草と薬草はイコールなのです。 マンドレイクも、少量を不眠の薬や、吐剤、媚薬、不妊治療に使っていたと言います。 そこから、マンドレイクの根を引っこ抜くと、この世の物とは思えない様な奇声を発し、それを聞いた人間は狂い死にしてしまう、という有名な伝説が生まれたのです。 これは『取り扱いには十分注意しなさいよ』という戒めに他なりません。
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1804年、世界で初めて全身麻酔による乳ガンの摘出手術に成功した紀州の医師華岡青洲(はなおかせいしゅう)は、猛毒のチョウセンアサガオ(これもナス科、別名きちがいなすび)から抽出した成分で、麻酔薬を作りました。 青洲の活躍は、有吉佐和子の小説「華岡青洲の妻」(1966年)で詳しく知る事ができます。 「の妻」とあるように、麻酔薬の実験台になった妻に主眼を置いた作品。 映画やTVドラマにもなっていて、最近ではNHKが2005年にドラマ化しています。 ちなみに主演は妻役の和久井映見。
当時、チョウセンアサガオは「曼陀羅華(まんだらげ)」と呼ばれ、恐れられていました。 「まんだらげ」と「マンドラゴラ」。 どこか似ていませんか?

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