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みにくいすいかの子
【8/10】
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実りの秋です。
山の木々達は赤や黄色や茶色に色づき、針葉樹の緑色がアクセントとなってとてもきれいです。
イガイガが痛そうだけどとてもおいしい山栗、帽子がかわいいどんぐり、ちょっと太めのクヌギの実、甘くておいしいアケビの実、にょきにょきと落ち葉の間からかさを開く森のきのこ達、きれいな赤い実のガマズミやイイギリやサルトリイバラ、神秘的な美しい紫色のムラサキシキブの実。
鳥や動物達はいそがしそうにそれらを集めて冬ごもりの準備をしています。
スイカの子は町はずれのさつまいも畑のそばにある一軒のビニールハウスにやってきました。
そこには収穫をまぬがれたボケナスとプチトマトが住んでいました。
彼らはスイカの子を追っぱらおうとしませんでした。
しかも3週間泊まっていってもいいと言うのです。
どうしてこんなにしてくれるのか後でいやなほどわかりました。
彼らは話し相手がほしかったのです。
それも自分の自慢話ばかり。
少しでもスイカの子がしゃべろうとすると、ボケナスは、
「君は焼きナスになれるかい?」
「いいえ。」
「じゃァ、だまってなよ。
ボケナスは嫁に食わすなって言うぐらいだからね。」
と、わけのわからないことを言いだしますし、プチトマトは、
「あなた、トマトケチャップになれて?」
「いいえ。」
「なら自分よりりこうな人が話してる時はしゃべらないことね。」
と、自分だってなれないくせにスイカの子にしゃべらせてくれません。
彼らは、このビニールハウスが世界のすべてで、お互い自分が世界の良い方の半分だと思っていました。
こんな彼らの話を3日も聞いていたら誰だってうんざりします。
スイカの子はとうとう我慢できなくなって、プチトマトに温室を出ていきたいと言いました。
プチトマトは赤い顔をさらに赤くしてカンカンに怒りました。
「この世界を出ていくですって?」
「ちがいます。
世界はもっと広いんです。
この温室の外に山や川や街や海が広がっているんです。」
「おだまり!
私の知らない世界があるわけないじゃないの。」
「でも、僕はみたんです。」
「あなたは悪い夢をみているか、それでもなかったら気がふれているのよ。
まァいいさ。
そんなに言うならそのもっと広い世界とやらに行ってみなさいよ。
どうせ見つかりっこないんだから。
あとで私達の所へあやまりに来るに決まってるわ。」
スイカの子はビニールハウスを出て行きました。
北風がちょっぴり冷たいけど、何日かぶりでとてもすがすがしい気分になりました。
「あの人達は何も知らないんだ。
一生あのビニールハウスの中で自分達が世界のすべてだと思っているんだ。」
彼らのことを考えるととても腹立たしくなってきます。
スイカの子はもう忘れることにしました。
そしてまた旅を続けることにしました。