森の演劇会
【10/10】
その後も一行は歩き続けました。
気が付けば空が茜色に染まっています。
「王様はこの次にして、ひとまず解散にしない?」
くろかすちゃんの意見に、みんなが賛同しようとした時、
「あれだ!!」
突然げんまいくんが前方を指しました。
そこは廃線の踏切で、古びた警報機と遮断機が取り残された様に建っていたのでした。
「あれが王の宮殿だ。」
「まさか…」
「ねー」
みんなが疑うのも仕方ありません。
もともと王様なんて想像の中での存在なのですから。
でも居たんです。
そこに。
くろかすちゃんが言った通り、声も出なくなる程イカメシイ顔をした『オナモミ大王』が。
その姿を見て、ゆりねちゃんも震えています。
「さあ、行くぞ。」
困惑気味のみんなとは対照的に、使命感に燃えたげんまいくんは、ずんずんと王様に近付いて行きます。
「大王様。
お初にお目にかかります。
私はこの国に住むげんまいと申す者です。
本日はお恐れながら大王様の花嫁候補を連れて参りました。
そこに控えておりますゆりねでございます。」
「ゆりねです。」
ゆりねちゃんは恐いのを一生懸命我慢して、王様の前に歩み出ました。
オナモミ大王は、ゆりねちゃんを上から下までゆっくりと見た後にひとこと言いました。
「そち、なぜ余との結婚を望む。」
「王が憂えば、国も憂います。
私の美しさで大王様のお顔の曇りが少しでも晴れるのなら、私は喜んで王の妻となります。」
くろかすちゃんが、
「今の聞いたァ〜?」
という顔をして、周囲に同意を求めます。
一瞬の沈黙の後、大王の声が宮殿に響きました。
「気に入った!
そなたを余の后(きさき)とする事にしよう。
さっそく式の準備じゃ!」
「え!?
いま会ったばかりなのに、もう式挙げるの?」
そらまめくんがけげんそうに小声で言いました。
「ゆりねちゃん、ちっとも嬉しそうじゃないね。」
くぬぎくんが言いました。
「気のせいかなぁ。
王様の方も、なんかこう、仕方なくお后をもらうって感じに見えるんだよね。」
「あなた、本当にそれでいいの?」
くろかすちゃんまでゆりねちゃんを心配しだしました。